2012/09/04

賞味期限の日

月に1回くらいだろうか,私には「賞味期限の日」がある。
特に決まり決まった日というわけではない。
買い物に行く気がしないとき,冷蔵庫の中をあさるだけの話である。
そして賞味期限が切れた食べ物を探し出して,「ああそういえばこれ買ったな」と思いつつ,勇気を出して料理するのである。本当に腐ったものは別だが。
そういうときは結構豪勢な料理ができる。そして,食べるときも気合いが入るのである。これを食べても腹をこわさないぞ,と心に誓うのである。
腹をこわしそうだったら一口でやめようと,全身全霊で自分の下に神経を集中させ,最初の一口を食べるのだ。

たいがいはどうということのない,ただの料理である。

半透明になりひび割れだらけの生卵が出てきた。ところがこれは賞味期限を切れて4日しか経っていないのである。これは過去の経験からしてもおかしな話だ。思わず電気にすかして中を確認したが,ひよこの形は見えなかった。だが,過去の経験に引きずられると目の前の現実を見誤るのは世界の歴史が証明している。そういうわけで,そっと捨てたのである。

2012/09/03

赤城のムカデの昔話

昔,群馬の赤城山に神様がいました。赤城山の神様には,ムカデの部下がいました。
栃木の日光にも神様がいました。日光の神様にはヘビの部下がいました。
赤城と日光は隣同士だったので,交易がありました。赤城のムカデは,蚕から生糸渡されて,日光に売りに行きました。そしてムカデは,帰りに湯葉を買って帰ったのでした。
ところがある日,ムカデが日光で生糸を売った帰り,中禅寺湖で一休みしていると,酔っ払ったヘビが意地悪なことを言いました。
「おまえの足は何本あるんだ。わらじを履いている内に一日終わってしまいそうだな。」
ムカデは顔を真っ赤にして答えました。
「おまえなんか足がないから履きたい靴も履けないじゃないか」
すると,酔っ払ったヘビは怒り出しました。
ヘビは,「そういうのは差別って言うんだぞ。許さない。」
といって,ムカデの足をみんな食いちぎってしまいました。
ムカデは動くことができなくなり,かわいそうに死んでしまいました。
ムカデが日光で死んだと聞いたので,ムカデの家族たちは中禅寺湖でお葬式をしてやろうという話になりました。そして,おばあさんのムカデやら,赤ん坊のムカデまで,13人で4日かけて中禅寺湖までやってきました。そして,お葬式をしようとすると,あちこちからヘビが集まってきて言いました。
「ここはうちの領土だから,よそ者は勝手に葬式をしてはいけない」というのです。
ヘビの言葉はなまりがひどく,ムカデにはよくわかりませんでした。けれども,ヘビのみんなが舌を出しながらシューシュー言っていました。
ムカデは,お葬式をあげることもできず,また4日かけて赤城に帰ってきました。
ムカデのおばあさんは,長旅に疲れ,葬式もできなかったので気が滅入ってしまい,寝たきりになってしまいました。
そこで,ムカデの家族は赤城の神様に相談に行きました。
赤城の神様は,「よしわかった。元はといえば,中禅寺湖はこちらの領土だ。ヘビがたくさん住み始めたからそっとしてあるだけなのだ。日光の神様に中禅寺湖はこちらの領土だという手紙を送ってやろう。」
といいました。そして,手紙を送りました「中禅寺湖はうちの領土だ。ムカデに葬式をやらせないというのはどういうことだ」
すると,日光の神様から手紙が帰ってきました。
「中禅寺湖はうちの領土です。ムカデが葬式をするなら許可をもらってください。」
それを読んで,赤城の神様は怒りました。
「中禅寺湖はうちの領土だ。ヘビの奴らには痛い目に遭わせなきゃならん」
赤城の神様は,ムカデの部下を呼び集め,日光に攻め入る準備をしました。ムカデたちは,緑の鎧をつけて,赤い兜をかぶって,足にはしっかりわらじを履いて準備をしました。
日光のヘビたちも,準備をしましたが,もともとつるつるの肌のため,鎧も甲もありませんでした。
日光の神様は,困り果てました。このままでは負けてしまいます。そこで,援軍を頼むことにしました。
日光の神様は,ヘビたちに「援軍がくるまでがんばってくれ」と言い残し,鹿に化けて出かけてしまいました。ヘビたちは,「肝心なときに逃げ出すんじゃどうしようもない神様だ」と言いながら,ムカデたちに立ち向かいました。

ムカデの大群は,「足を切られ殺されたムカデの敵を討とう」と,神様を先頭に真っ赤な顔をして鎧甲をじゃらじゃら鳴らしながら押し寄せました。対するヘビは,つるつるの体でとぐろを巻いて待ち受けました。両軍向かい合ったところで,赤城の神様が突進しました。そして両軍の戦争が始まったのです。その地はいまは「戦場ヶ原」と言われています。
ムカデの大群は,ヘビたちを次々とかみ殺しました。蛇も毒の牙で立ち向かいました。どちらも血だらけになって戦いました。

そのころ,鹿になった日光の神様は,猿丸という猟師を見つけました。そこで猿丸の前に出ていきました。猿丸は,獲物を見つけたと思い,弓を構えました。しかし鹿は,あとちょっとのところで逃げてしまいます。猿丸は鹿を追いかけて,日光の山の上にやってきました。
すると,ムカデの大群と,蛇の大群が戦争をしているではありませんか。「これはすごい」と猿丸は立ち尽くしました。
すると,鹿から元に戻った日光の神様がいいました。「私はヘビの軍隊の神様ですが,どうにも勝てそうにありません。力を貸してくれませんか。」
猿丸は,自分の弓の腕を見せてやろうという気になりました。そこで「よしわかった」といい,ムカデの大群で一番大きなムカデの左目をめがけて矢を放ちました。

矢は見事にムカデの左目に当たりました。傷を受けたムカデは赤城の神様でした。
赤城の神様は「やられた」と言って,引き返してしまいました。ムカデの大群も,神様が帰ってしまったので,一緒に帰ることにしました。ムカデは帰りに,沼で血のついた体を洗い流しました。その沼は,いまは「赤沼」と言われています。

赤城の神様は,目の傷を治すために,群馬の温泉にやってきました。その温泉は,「負神温泉」と言われ,いつの間にか「老神温泉」と名前が変わりました。傷を負ったムカデの兵隊も,一緒に温泉に入り,傷を治したと言うことです。

実は猟師の猿丸は,群馬の岩代国の出身でした。赤城の神様に弓を向けてしまったことを知って後悔しました。
「おくやまに もみぢふみわけ なくしかの こゑきくときぞ あきはかなしき」という歌を歌いました。「紅葉を踏み分けて山奥にやってきた。鹿の鳴き声を聞いた。なんて悲しい秋なんだろう」という意味です。猿丸は,この歌を歌って,旅に出てしまいました。この歌は,百人一首に載っています。


昔の話です。

2012/09/02

高崎観音ジョギング

昨日は,昼寝をしたところ,6時になってしまった。
せっかくの休みなので,体を動かそうと思い,高崎観音までジョギングすることにした。
高崎観音までは約5キロ。ちょうどいい距離だ。身軽に,家の鍵だけ以て出かけた。
高崎観音は,観音山の山の上にある大きな観音様で,夜になるとライトアップされる。17号から見えるので群馬に詳しくない人でも知っているかもしれない。
のんびり走っていると,6時半ころ観音様に着いた。そのまま来た道を帰るのもつまらないと思い,たぶん,ここを行けば麓まで行けるだろうという道を走り始めた。
ところがこれが間違いだった。
どんどん日が暮れてくる。そして,山道に街頭はほとんどない。車もたまに通り過ぎる程度。たまに通り過ぎる車のヘッドライトがむしろ怖い。みるみる視界が狭くなり,薄暗く,車道の端の白い線が見える程度。それも所々消えている。たぶん,落ち葉がたまっているのだろう。木陰になって余計暗い。
しばらく走って,迷ったことに気づく。こんな時に限って携帯はない。地図は見れない。走れば案内板に出会うはず。そうおもってしばらく走った。しかし,車できたときも通ったことのない道。すなわち初めての道。そして暗くて案内板が見えない。
あきらめて引き返した,来た道を。敗北を抱きしめて。ようやく分かる道まで出てきた。
こんな暗闇を走っている人は他にはいない。やはり時間を間違えたのだ。今度は昼間に来よう。そう思って暗闇を走っていたら,老人が普通に散歩をしていた。暗闇の山の中を。

自分はまだ若造だと思った。

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙

城山三郎が訳しているというので,これはきっと元気づけられるに違いないと思った。
就職してから会社経営をするようになるまでにおこる数々の悩みについて,アドバイスするというもの。
ついつい読み進めたくなってしまって,かなり早く読み終わった。