群馬弁護士会には,法教育委員会という委員会がある。
これは,子供たちに「法」に対する理解を深めてもらうことを目的としている。
現在の活動のメインは,模擬裁判である。群馬弁護士会で,夏に「サマースクール」,冬に「ウインタースクール」を開催し,子供たちに模擬裁判をやってもらうのだ。他にも学校に出前授業をしたりもしている。
模擬裁判のシナリオは,毎年1つずつ作っている。
今年のシナリオは,「武蔵の剣」である。
巌流島の決闘をパロディ化して,宮本武蔵が,元彼女と歩いてる佐々木小次郎を見てかっとなり木刀で一発殴って怪我をさせた。さて,殺人未遂となるか,傷害にとどまるか。争点は殺意の有無である。
この世界に入る前,屋外で木刀を振り回して人を殴るなんて,どう考えたってそれだけで殺人未遂だと思っていた。ところが,この世界では,木刀で人を殴るだけでは殺人未遂にはならないと考える人が多い。他の要素も十分に検討する必要がある。動機が強かったか,怪我の場所や程度がどれくらいか。そうすると,木刀で殴ったという場面では,殺人未遂と考えられるケースはむしろレアだ。
実は,それって市民感覚とずれているんじゃないの?という問題意識があり,今回のシナリオを提案させてもらった。多くの人の協力を得て,結構面白い作品となり,既に2回ほど中学生相手の模擬裁判で使っている。
中学生の意見は,ほとんどが「殺意あり」だ。
全員が「殺意なし」にならないように,いろいろとシナリオを修正したのが嘘のようだ。
市民感覚とずれる争点をテーマにできた点は,僕としては成功だったと思う。
法教育は楽しい。子供を相手に,わき上がってくる柔軟な発想を楽しみ,議論を整理し,一緒に考え,いろいろ考えさせられる。
弁護士の中には,苦学中に塾講師や家庭教師をやっていた人も少なくないはず。こういう仕事,意外と向いているのではないかと思う。
4 件のコメント:
興味深く拝読いたしました!
そもそも、殺人未遂と傷害の違い(=殺意の有無?)って、本来峻別できるものなのでしょうか?
つまり、「殺意」って、ゼロかイチかに必ず分けられるものなのでしょうか・・・?
殺意があると確信できなければ,傷害にとどまる事になるんだろうね。そして「殺意」の理解はなかなか難しくて,どう定義付けるかという事自体,争いになるといっていいと思う。本来的には,議論としては,まず「殺意」とは何かを決め,殺意の有無を判断するのに何を考慮する事情とするかを決め,実際の事件に当てはめて検討する,という流れになるのだろうけれど,模擬裁判でそのようなアカデミックな議論をするのは,時間が足りないね。
返信ありがとうございます!
「殺意」とは何か。実際に模擬裁判で議論するには到底時間が足りないと思いますが、学問的には、通説などはあるものなのかどうか。。
「殺意」の定義については,裁判員裁判を導入する際にかなり研究されています。学説は乱立していますが,裁判所の考えはある程度定まっているように思えます。
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