2009/09/18

赤とんぼ

野坂昭如なんていっても,今の世の中ではあまりインパクトがなくなってしまったかもしれない。

法律の勉強をしていると,わいせつ文書のところで,この人の作品が出てくるから,知っている人がいるかもしれない。

でも彼は,おもちゃのちゃちゃちゃとか,ほたるの墓とか,そんな有名な作品も出している。

僕はずいぶん前だったか,戦争童話集という本がどこかの書評に載っていたのをみて新宿の紀伊国屋で買ったことがあった。書評に載るくらいだからどこかに平積みにされていると思ったのだが,どこかに小さくおいてあった。
結局その本は,風呂に入りながら読むという新しい挑戦の犠牲になった。風呂にいた間は大丈夫だったのだが,風呂上りにタオルに挟んだのをすっかり忘れて洗濯機で洗ってしまったのだ。後にも先にも本を洗濯機で洗ったのはこの一冊だけだと思う。中公文庫のカバーをはずすと,鳥の絵が出てくるのを知ったのもこのとき。濡れてくしゃくしゃに丸まった鳥の絵を見てなんだか悲しい気分だった。

この本はなかなかよかったと思う。まあ,いわゆる反戦ものなのだが,そういうのは抜きにしても面白かった。今でも思い出す話がたくさんある。

その中のひとつが,赤とんぼ。

戦争末期,日本軍は飛行機がもうなくなって,赤とんぼという練習機で特攻に挑んでいたという話。その赤とんぼは,アメリカの戦闘機に比べると蚊のように小さくて,そして遅い。あまりにも小さくて弾が当たらない上に,あまりにも遅くてアメリカの戦闘機はすぐ通り越してしまって弾があたらないくらい。さらに,車輪もしまえない。アメリカ兵が向こうの飛行機からわざわざタイヤが出ていると教えてやったくらい。

弱々しいそんな飛行機が,フラフラと太平洋の向こう側に飛んでいったっていい。
不思議と,太平洋からは朝日が昇るはずなのに,太陽が沈む太平洋に向かって飛んでいく赤とんぼが頭に浮かぶ。



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