昔どこかで読んだ気がする,このような題名の童話を。
アナトールのチーズなんたらではなかった気がする。
チャーリーのチョコレート何たらでもなかった気がする。
レミーのなんたらレストランでもなかった気がする。
まあいいのだ。
都心の電車に乗ると,がりがりにやせた血色の悪いネズミたちが夜も寝ないでじゃれているように見えてきたのだ。かわいそうにあちこち穴が開いた服を着て素肌が見えてしまっている。
肥えた田舎のネズミは,どぶの中よりも山の中にいたほうがいいんじゃないかと思ってしまう。
小さな頃に読んだ童話はこんなような話だった気がする。
田舎に住んでいるネズミに手紙が来た。都会に移り住んだ古い友人からだった。都会は素晴らしいよ,ぜひ一度あそびに来てみてくれ。
そんな手紙を受けて,田舎のネズミは都会のネズミを訪ねることにした。
都会のネズミを尋ねると,よく来たね,お腹が減っただろう,まあここのチーズでも食べたらどうだい,と声をかけられた。
田舎のネズミはそのチーズを食べて驚いた。田舎では食べたことがない美味しいチーズだった。
田舎のネズミはしみじみといった,都会は素晴らしいところだねえ。それで君はどんな生活をしているのだい。
すると突然,都会のネズミが叫んだ。危ない,隠れた。
影に身を隠してみていると,他のネズミが人間にフライパンでひっぱたかれて犠牲となっていた。
人間が去ると,もう大丈夫だよと都会のネズミは言った。
田舎のネズミは,どきどきしたねえ,といいながら,これも美味しそうだねと別のチーズに手を伸ばそうとした。すると都会のネズミは慌ててて言った。それは毒入りチーズだ。人間の罠だから食べてはいけないよ。
田舎のネズミはため息をついて言った。
都会は確かに素晴らしいところなのかも知れない。でも僕には些か居心地が悪いよ。食べ物は悪くてもいい。もう少し,のびのびと行きられる方が僕は幸せだ。
そういって,田舎のネズミは帰っていった。
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