2010/04/12

雨だね

雨だ。春になって,昨日一昨日と暖かかったのに,雨が振った途端に冷え込む。
春という奴は,長閑な休日を見せてくれたかと思うと,手のひらを返したように急に冷たくなる。
漸く咲いた桜の花の,風に舞い散る一番の幸せを奪い取る。

だが散った花びらが,小さな水たまりに流れていく。日が沈むにつれ,そこはまるで夜空に輝く星空のように見えてくる。空に天の川がある。だが天の川は本当は星は流れていない。星はただ同じ場所から身動きが取れない。

だが雨雲に隠れて空の天の川が見えない日は,普段は映すことのない誇りにまみれたアスファルトが,見えるはずのない星の流れる天の川を映している。車のライトはまるで月明かりのようにアスファルトの空を映し出す。

春の雨は,夜になると天地を逆転させる。

我々は天井を歩き始めているのに,誰も気づかない。空が地面にあるなんて信じられないから。足が地面から離れているなんて考えられないから。だが,信じているに過ぎない。その証拠に,我々はいちいち地面に足がついているなんか確かめていないじゃないか。


ずっと前,雨がひらひら落ちるなんて書いて,あれはたしかに傑作だった。もう二度と書けやしない。いつの間にかなくなってしまう道路の花びらのように,人に踏まれて茶色くなり,地面にへばりついてそのまま消えていってしまう。言葉なんてそんなものだ。埃のように部屋の隅でダンスをしている時もあるけれど。

トタン板に雨が当たる音が懐かしい。トタン板なんて見なくなってしまった。

外に出ると雨が僕を包み込んでしまう。僕は部屋の中にまでその雨を持ち込んで,陽の光が差し込むまで部屋のなかは土砂降りだ。僕は部屋の中で傘をさして,息の出来る空間をかろうじて確保している。そしていつの間にか足が地面を離れ,足元に星空が広がる。だがその前に電気を消さなければならない。そうでなければぼんやりとした青白い光によってすべての境界が曖昧になり,僕は宙に浮く前に霧のように蒸発してしまう。


なんとなく寂しい気持ちになる。
ひらひら降るなんていって,雨が降ると何となく嬉しい気持ちになったのは,あの時だけだった。あの瞬間そう思うと,まるでずっとそう思っていたかのように勘違いをしてしまう。だがあれは,昔からずっとではなかった。いくつかの条件が重なって,あの瞬間,過去のすべてを背負って,雨がひらひら降ってきた。

だが今は,あの瞬間,そしてあれからの時の流れをすべて背負って,雨が試着室のカーテンのように包み込む。

だがきっと,悪いのは雨ではなくて風なのだ。
せっかく浮かんだ僕を,地面に叩きつけてびしょ濡れにしてしまう。僕は花びらだらけになって,震えながら排水口に吸い込まそうになる。

だから,暖かい風呂に入って,しっかり体を乾かして,それから,ザアザアぶりの部屋の中に電気を消して入る準備をしなければならない。

怖がって電気を付けていたら,何も見えない。

雨の日に頭に浮かんだ数々の水滴。今日はしっかり書き留めた。支離滅裂だけど。整理するのは書き留めた後の仕事だ。

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